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日本人の運動実施率はなぜ52%で止まるのか — 統計が示す「運動仲間がいない問題」の構造

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#運動人口#スポーツ統計#仲間募集#業界分析

「運動仲間がいない」は、なんとなく感覚的に語られがちな話題です。でも実際に統計を当てると、表に出る理由のなかでこのキーワードはトップ10にも入りません。むしろ「仕事が忙しい」「面倒くさい」のような、時間や気力の話に隠れて見えなくなっています。

それにも関わらず、日本の運動人口は政府目標との大きな差を埋められず、特定の世代だけが急激に「やりたいのにできていない」状態に置かれています。本記事では、スポーツ庁・笹川スポーツ財団の最新調査データを使って、運動人口の実態と「仲間問題」の本当の正体を整理します。

政府目標70%、実績51.7% — 18ポイントが20年埋まらない

スポーツ庁「令和7年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」(2026年3月公表)によると、成人の週1回以上のスポーツ実施率は 51.7% です。前年(令和6年度)は52.5%、その前(令和5年度)は52.0%。直近4年間、52%前後で完全に頭打ちになっています。

これに対して政府の第3期スポーツ基本計画は、成人の週1回スポーツ実施率の目標を 70% と設定しています。差は 約18ポイント。この差はコロナ前からほとんど縮まっていません。

平成30年(2018)55.1% → 令和元年(2019)53.6% → 令和2年(2020)59.9%(コロナ初年でピーク)→ 令和3年(2021)56.4% → 令和4年(2022)52.3% → 令和5年(2023)52.0% → 令和6年(2024)52.5% → 令和7年(2025)51.7%

日本人の週1回以上スポーツ実施率と政府目標の推移(2018-2025)

コロナ禍で外出制限の反動として一時60%近くまで上がりましたが、その後3年連続で52%前後に着地しています。「コロナで運動意識が高まった」というナラティブは、データを見る限り幻だったと言わざるを得ません。

30代女性で38.9% — 運動人口の谷は「働き盛り」にある

実施率の年代別データを見ると、もっと深刻な姿が浮かびます。令和5年度の年代別週1日以上実施率はこうなっています。

年代 全体 男性 女性
10代 55.6% 62.9% 49.8%
20代 49.4% 54.6% 43.9%
30代 44.5% 49.8% 38.9%
40代 46.5% 51.1% 41.7%
50代 46.8% 49.3% 44.3%
60代 56.9% 55.8% 57.9%
70代 67.3% 68.6% 66.2%

年代別 週1回以上スポーツ実施率 - 30代が谷、60代以降V字回復

最低は 30代の44.5%、そのなかでも 30代女性は38.9%。10代から30代までの落ち込み幅は全体で -11.1pt、女性に至っては -10.9pt の崖です。

そして60代以降、実施率は V字 で回復していきます。70代では67.3%と全年代でトップ。

つまり日本の運動人口の谷間は、仕事と育児で一番忙しい世代にあります。学校を出てしばらく、退職する前までの数十年間、運動から離脱したまま戻ってこない構造になっているわけです。

「やりたいのにできていない」14ポイントのギャップ

ここで注目したい数字があります。スポーツ庁の同じ調査で、「運動・スポーツの実施希望率」は 66.6%。実施率の52.5%と比べると 約14ポイントの乖離があります。

世代別に乖離を見ると、さらに露骨です。

  • 40代女性:希望 vs 実施で 19.9pt 乖離
  • 30代女性:18.6pt 乖離
  • 20代女性:17.6pt 乖離

「やりたいのにできていない」ギャップ - 子育て世代女性で最大19.9pt

「やる気がない」のではなく「やりたいのに、できていない」人が、ある世代に集中しているということです。日本の運動人口問題は、意欲ではなく実行のボトルネックの問題だと、データは示しています。

公的調査で「仲間がいない」は11位、6.4% — でも...

では、なぜできないのか。スポーツ庁の最新調査(令和6年度、回答者31,137人)で「運動・スポーツの頻度が減った/増やせない理由」のトップ10はこうです。

  1. 仕事が忙しいから 32.6%
  2. 面倒くさいから 26.3%
  3. 体力が衰えたから 19.2%
  4. 家事が忙しいから 15.5%
  5. お金に余裕がないから 10.5%
  6. 生活や仕事で体を動かしているから 8.1%
  7. 運動・スポーツが嫌いだから 7.6%
  8. 病気やけがをしているから 7.5%
  9. 場所や施設がないから 7.1%
  10. 育児が忙しいから 6.7%
  11. 仲間がいないから 6.4%

「仲間がいない」は 第11位、6.4%。経年でほぼ横ばい。

笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ」(2024年8月、5,272人)でも、運動阻害要因の上位は「無精である」74.7%、「運動によって疲れてしまう」74.5%、「動機づけに欠ける」71.0% と続き、「一緒に運動する人がいない」は相対的に低いと明記されています。

データを素直に読むなら、「仲間がいないから運動できない」は、少なくとも表面上は主要な障害ではないということになります。

それでも「仲間問題」は構造的な根を持つ

ただし、ここで思考停止すると本質を見落とします。3つの観点で整理してみます。

観点1:自尊心と社会的望ましさバイアス

「仲間がいないから運動できない」は、自分が孤独であることを認める言葉です。一方「忙しいから」「面倒くさいから」は、自分の責任ではなく状況や性格のせいにできます。

アンケートで「仲間がいない」と答える人が少ないのは、それを認めにくいからという側面が大きいと考えるのが自然です。社会調査ではよく知られた「社会的望ましさバイアス」の一例で、心理的にやさしい回答の方が選ばれやすい性質があります。

観点2:「面倒」の裏に隠れた仲間問題

笹川スポーツ財団のデータで阻害要因1位だった「無精である」74.7%。これは何を意味しているでしょうか。

1人で体を動かすには、強い意志か、毎週の習慣化が必要です。一方、「友達が今夜やるって言ってる」「サークルの練習日だ」というように、外部からの予定が組まれていると、面倒くささのハードルは劇的に下がります。

つまり「面倒くさい」の裏には、しばしば「一緒にやる予定を作ってくれる相手がいない」という事情が隠れています。表向きの理由とは別の構造で、「仲間問題」は静かに作用していると見るべきでしょう。

観点3:30代女性の運動離脱は、ライフイベントが起点

日本公衆衛生雑誌の研究「20歳代および30歳代女性のライフイベントと生活習慣」では、出産後に「運動」項目で望ましくない生活習慣をする者の割合が有意に上昇したと報告されています。

子育て期に運動から離脱する女性が多いのは、時間がないからだけでなく、学生時代のスポーツコミュニティから物理的に離れることも大きな要因です。それまで一緒にやっていた友人グループとも、出産・育児・転居で会えなくなる。「仲間」が消える結果として、運動が止まる、というメカニズムです。

構造変化:「会社が用意してくれる時代」の終焉

「日本人の運動仲間問題」を語る時、もう一つ見ておくべきが供給サイドの変化です。

実業団スポーツの大規模縮小

1991年から2008年の間に、企業スポーツ部門は 324社が休部・廃部しました(出典:ダイヤモンド・オンライン)。1998-2000年の3年間だけで約150件と集中的に発生し、バブル崩壊・リーマンショックという2度の不況が決定打になりました。

コロナ後も、スズキ陸上部、日清食品グループ陸上部(2021年3月廃部)など名門が相次ぎ撤退しています。広告宣伝コストとしての企業スポーツは、もう経済合理性が成立しない段階に入っています。

総合型地域スポーツクラブも頭打ち

代わって行政が推進したのが「総合型地域スポーツクラブ」です。が、スポーツ庁の令和5年度育成状況調査によると、クラブ数は 3,581クラブで頭打ち。全市町村網羅目標も76.1%で未達。会員規模も「101〜300人」が最多で40.8%と、決して大きくありません。

chocoZAPと個サル — 「単発・低コミット」の隆盛

一方で爆発的に伸びているのが、新しい形態です。

  • chocoZAP(RIZAP系):2025年11月時点で 1,828店舗、会員 135万人規模。24時間・無人・低価格で総合型クラブの市場を侵食
  • 個サル:施設1社あたり東京・神奈川・埼玉・千葉で12会場、月70回以上開催の事例も。LaBOLA・FutPark等の予約プラットフォームが流通インフラ化

つまり日本のスポーツ市場は、「会社や地域が用意してくれる継続型コミュニティ」が縮小し、「個人が単発で予約する場」が拡大している、という構造変化のさなかにあります。

そしてこの変化は、「仲間と継続的に運動する場」の供給を細らせています。続けて運動するための社会的なインフラが薄くなっているのに、運動継続のためには 続けやすい仲間関係こそが鍵、というジレンマです。

コロナがダメ押しした「コミュニティの分断」

笹川スポーツ財団の「コロナ影響全国調査」(2021年2月、5,005人)によると、コロナ拡大前(2019.2-2020.1)の運動実施率54.3%は、拡大後(2020.2-2021.1)に 50.4% へ -3.9pt 低下しました。

種目別に見ると、その傾向はもっと明確です(感染拡大前→後):

  • ウォーキング: 27.6% → 27.4%(横ばい・ソロ運動)
  • 散歩: 19.5% → 15.8%(-3.7pt・ソロ運動)
  • 筋トレ: 12.6% → 11.1%(-1.5pt)
  • 水泳: 4.2% → 2.7%(-1.5pt・集団施設依存型
  • サイクリング: 5.3% → 3.7%(-1.6pt)
  • ゴルフ(コース): 3.0% → 3.5% → 3.6%(増加・少人数屋外)

コロナ前後の種目別実施率 - 集団・施設依存型が大幅減、屋外少人数型が増加

水泳やサークル系の集団スポーツが目立って減り、ソロ運動と少人数の屋外スポーツが横ばい〜微増。集団スポーツのコミュニティが断絶したということが、種目別のデータから読み取れます。

2024年時点でフィットネス市場全体は 約7,100億円で過去最高見込みと回復しましたが、内訳はchocoZAP等のコンビニジムが牽引。サークルや団体スポーツに紐づく「集まる場」は完全には戻っていません。倒産件数も2023年度は28件で1998年以降の過去最多更新。旧来型コミュニティの淘汰と、無人型の隆盛、という二極化が進行中です。

まとめ:「仲間問題」は表に出ないが、構造のど真ん中にある

統計を整理すると、こういう景色が見えます。

  • 政府目標70% vs 実績51.7% の 18ポイント未達は、20年近く埋まっていない
  • 谷間は30代(特に女性38.9%)。「やりたい」希望はあるのに、20pt近く実行できていない
  • 表向きの理由TOPは「仕事/家事多忙」「面倒くさい」。「仲間がいない」は11位の6.4%だが、これは社会的望ましさバイアスの可能性が高い
  • 構造変化として、実業団も総合型地域SCも縮小・頭打ち。代わりに無人ジム・個サルが伸びている
  • コロナで集団スポーツのコミュニティが分断され、ソロ運動・少人数屋外スポーツにシフトした
  • 「仲間と続ける場」の供給は構造的に細っている

つまり、日本の運動人口を50%台から70%へ引き上げるためには、「個人の意欲」よりも「仲間と続けやすい場」をどう新しく作るか、が中核の課題だということです。

私たちが スポっと(Sportt) を作っている理由も、ここにあります。地図でひと目で「今夜・近くで」やっている運動募集が見える、というシンプルな仕組みを通じて、「面倒くさい」のハードルを下げ、「仲間と続けやすい場」を新しいかたちで作り直したい。それが、52%で止まっている運動人口の壁を超えるために、私たちが選んだアプローチです。

「やりたいのに、できていない」14ポイントの人たちに、もう一度運動を取り戻してもらうこと。日本のスポーツ産業のこれからの10年は、ここで決まると思っています。

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出典・参考データ

  • スポーツ庁「令和7年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」(2026年3月公表)
  • スポーツ庁「令和6年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」(2025年3月公表、PDF)
  • スポーツ庁「令和5年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」(2024年3月公表、PDF)
  • 笹川スポーツ財団「健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ」(2024年8月)
  • 笹川スポーツ財団「スポーツライフ・データ2024
  • 笹川スポーツ財団「新型コロナウイルス感染拡大が国民の運動・スポーツ実施に与えた影響に関する全国調査」(2021年2月)
  • スポーツ庁「令和5年度 総合型地域スポーツクラブ育成状況調査
  • 帝国データバンク「フィットネス業界動向調査(2024年度)」(2025年5月)
  • 矢野経済研究所「フィットネスクラブ市場に関する調査
  • 東京商工リサーチ「フィットネス・健康関連倒産動向」(2023年度)
  • ダイヤモンド・オンライン「企業スポーツの興亡
  • 日本公衆衛生雑誌「20歳代および30歳代女性のライフイベントと生活習慣」(J-STAGE掲載論文)
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